コラム

本を語り合える存在が力に 読書習慣

 いろいろな調査で、本を読まない人の割合「不読率」が話題になります。しかし、読書習慣のない人が新たに本を読み始めるのは簡単ではありません。本人の意思だけでなく、「きっかけ」「環境」「交流」がそろってこそ、読書は生活に根付くからです。
 読書の「きっかけ」はイベントや偶然の出合い、「環境」は図書館や書店・家庭にある本棚や空間、「交流」は本について語り合える家族や友人の存在です。多くの学校で取り組まれている「朝読み」は、まさにこの三要素がそろった好例でしょう。わずかな時間でも、日常に本を開く習慣を組み込むことが第一歩なのです。
 また、読書は一人で静かに行うものという印象がありますが、実際には家族や友人の影響で読み始める人が少なくありません。新たに読書を習慣にしたいときこそ、周囲の励ましや盛り上がりが大きな力になります。何事も、仲間がいると続けやすいものです。

(統括管理者 鴻上哲也)

<佐賀新聞 令和7年11月21日付「いすの木のもとで」より>

図書館と音 音楽や会話 本と人つなぐ

 図書館といえば、静かな場所というイメージがあります。確かに、静けさは本と向き合い、自分の考えを深めるために欠かせない環境の一つです。しかし、伊万里市民図書館では30年も前から、静寂だけにとらわれない図書館づくりを続けています。

 館内にはやわらかなBGMが流れ、ピアノが置かれた子ども開架室では小さなコンサートが開かれることもあります。こうした試みは開館当初から続くもので、音楽や会話を通して本と人がつながる温かな空間づくりを目指してきました。

 一方で、静けさを求める方のために、完全静粛エリアも設けています。静けさとにぎわい、そのどちらもが図書館を豊かにしてくれます。言葉と音、孤独と出会いが調和する場所。そこにこそ、これからの「知の広場」の姿があるように思います。

(統括管理者 鴻上哲也)

 

<佐賀新聞 令和7年10月23日付「いすの木のもとで」より>

蔵書数と健康寿命 要介護リスクとの関係注目

 興味深い研究論文が発表されました。図書館の蔵書数が多い自治体ほど、要介護高齢者が少ないというのです。慶応大と京都大の研究者が共同で7年間追跡調査したもので、関係者の注目を集めています。

 分析の結果、図書館の蔵書が人口当たり1冊(1万人の町なら1万冊)増えると、その地域の高齢者の要介護リスクが4%減少するという相関関係が確認されました。あくまでも相関ですので、因果関係を立証するものではありませんが、図書館やその蔵書の充実が健康長寿のまちづくりに有効である可能性を示しています。

 図書館は、市民が文化的な活動に参加するための大切な社会資本で、市民に対して知的な刺激を提供する役割を果たしています。しかも無料で利用できますので、高齢者が毎日出かけることで身体活動を促すこともできます。さらなる研究が待たれますが、図書館の有用性が、また一つ明らかになろうとしています。

(統括管理者 鴻上哲也)

 

<佐賀新聞 令和7年9月25日付「いすの木のもとで」より>

図書館の「利益」 数字に表せない豊かさ提供

 先日、ある会社員の方から「図書館は利益って出るんですか?」と尋ねられました。ちょっと考えて、こう答えました。例えば、図書館が本を100冊購入したとします。それを10人の市民が借りて読んだとしたら、100冊分の予算で千冊分の読書を提供したことになります。ですから、図書館は、本を借りれば借りるほど読書のパフォーマンスが上がるのです。
 企業のように金銭的な利益は生みません。しかし、限られた予算で市民の学びや楽しみを何倍にも広げることができます。子どもが初めて読む物語、大人が再び手にする古典、人生を変える一冊との出合い…そうした価値は、数字には表せません。
 図書館は「利益」ではなく、「豊かさ」を生み出す場所です。本を開くたびに広がる知識や感動こそ、私たち図書館員が市民に還元し続けたい、本当の意味での「利益」なのだと思います。


(統括管理者 鴻上哲也)

<佐賀新聞 令和7年8月29日付「いすの木のもとで」より>

一筆啓上 利用者からエール、激励

 「自分が生まれる前からあったのに、古さを感じることがない図書館が大好きです」「いくつも図書館にはお邪魔しましたが、『住みたい』と思ったのはここだけでした」
 いま、館内のいたるところに、このようなメッセージが掲示されています。これは、開館30周年記念事業実行委員会の取り組みの一つ「一筆啓上 市民図書館へ想(おも)いを込めて」に市の内外から寄せられた声です。図書館員にとって極めてありがたいエールですが、同時に身の引き締まる叱咤(しった)激励でもあります。
 市民図書館は、長年にわたって市民一人ひとりにかけがえのない思い出や、出会い、学び、そして人とつながる機会と場を提供してきました。図書館は、ただ単に本を借りたり読んだりするだけの場所ではなく、これらの活動が幾重にも交わることによって、「地域の知の拠点」と呼ばれるようになるのでしょう。

(統括管理者 鴻上哲也)


<佐賀新聞 令和7年8月1日付「いすの木のもとで」より>