コラム

まちどく

 「うちどく」という言葉を聞いたことはありますか?家族で1冊の本を読み合い、感想を交流することで親子の絆を強めようとする取り組みです。伊万里市では2007年から、各学校で家庭と連携しながら行われています。
 地域によっては、読み聞かせグループなどのボランティアが加わって、活動の場が広がってきている所もあります。そこで、本年度からは、地域ぐるみで子どもの読書を推進する「まちどく」という視点も加えることにしました。
 12月7日には、市内の黒川コミュニティセンターで「第1回 佐賀うちどくまちどく講演会」が開催されます。読書離れが叫ばれる中、身近な所で、いつでもだれでも本に触れることができ、子どもの読書を家庭・学校・地域ぐるみで応援する「まちどく」に期待が高まります。 (館長 鴻上哲也)

<佐賀新聞 令和6年11月15日付「いすの木のもとで」より>

公共図書館のサービス

 公共図書館は、自治体の予算で運営されるので、貸し出しはその地域に在住・在勤の方に限るなど、納税者である住民へのサービスが優先されます。ということは、その地域に住んでいなくても相応の税負担や寄付をすれば、住民並みの図書館サービスを受けられるという理屈にもなります。
 実際、伊万里市では「ふるさと納税」で7000円以上寄付をした方は、返礼品とは別に図書館の利用者登録ができ、市外の方であっても1年間は市民と同様に本を借りることができます(金額によって有効期間は異なります)。
 地域に関わってくれる交流人口と読書人口が増えることは、人口減少に悩む地方自治体にとって極めてありがたいことです。自分の読書環境を充実しながら、地域貢献もできる「ふるさと納税」による利用者登録制度。ご登録、お待ちしております。  (館長 鴻上哲也)

<佐賀新聞 令和6年10月18日付「いすの木のもとで」より>

ネット時代の図書館

 「人間は考える葦(あし)である」とは、パスカルの有名な言葉ですが、インターネットの普及以来私たちは、ちょっとわからないことがあってもすぐに答えを見つけられるようになりました。
 しかし、検索で得た正解は、自分で考えて出したものではありません。考えるために欠かせない条件は、だれかが書いたものを読んだり、だれかと議論したり、まとめて書いたりすることです。
 実際、図書館では、読書会やワークショップ・懇談会・グループ学習会など、さまざまな人々が話し合いながら、思索を深める活動が多く行われています。先日も、環境問題と図書館の関係について市民と行政が議論する機会がありました。
 図書館の存在意義は本を読むだけでなく、このような場を通じて、自由と民主主義が担保されることにあるのではないでしょうか。「考える市民になるためにこそ、公共図書館は存在する」(前川恒夫著『図書館の発見』より) (館長 鴻上哲也)

<佐賀新聞 令和6年9月20日付「いすの木のもとで」より>

不易流行

 司書なら知らないと「モグリ」と言われる、インドの図書館学者S・R・ランガナータンの「図書館学の五法則」の中に、第五法則「図書館は成長する有機体である」があります。図書館を単なる建物でなく生き物として捉え、常に変化や内的な成長がなければ死んでしまうと警告したものです。また、有田焼の人間国宝十四代今泉今右衛門氏は、当館での講演の際に「伝統は革新の連続だ」と話されました。どちらも、松尾芭蕉の「不易流行」に通じる考えです。
 本来、芭蕉の俳諧理念としての不易と流行は、新しいことを求めて変化することが俳諧の本質であるとしたもので、どちらか一方を重視するものではありませんでした。しかし現代では「理念は不易で、技術は流行」のように、変えるべきものと変えてはならないものを区別する時に誤用されることが多いようです。両者を対極的に捉えるのではなく、その根本は一つだと理解して使いたい言葉です。 (館長 鴻上哲也)

<佐賀新聞 令和6年8月23日付「いすの木のもとで」より>

イベントの魅力

 図書館フレンズいまりが主催した「俳句まつり」で、ある高齢の女性が入賞されました。
 伊万里市民図書館の誕生日を祝う7月7日の「図書館☆まつり」で行われた表彰式に、その方が和服姿で出席しているのに感激した主催団体のスタッフの一人が、次のような歌を作ってその場でお渡ししたそうです。「着物きて表彰式におでましの九十二歳の俳句のまつり」
 後日、女性の知り合いの方から、受賞したこともさることながら、「おでまし」と表現してもらえたことをとても喜んでいたと、うれしいご報告を頂きました。
 イベントを開催すると、集客の結果にばかり目が向きがちですが、参加者数の多寡に一喜一憂するばかりでなく、このような心の触れ合いが生まれることにこそ、大きな魅力や意味があることを忘れてはならないと思います。 (館長 鴻上哲也)

<佐賀新聞 令和6年7月26日付「いすの木のもとで」より>

公営直営、設置目的明確

 最近、全国的に新しい図書館が増えていますが、「にぎわい創出」や「地域振興」への意識の高い所は、おしゃれなデザインやサービスで人気を博しています。去る3月31日、当館を視察された盛山正仁文部科学大臣が、利用者数の減少について質問されました。その際、深浦弘信市長は「図書館は利用者数だけが尺度ではありません」と答え、資料の魅力や市民の学習活動の様子を紹介しました。
 伊万里市民図書館は、条例の中でその設置目的を「生涯学習の拠点」と定めています。つまり、図書館を通じて利用者の満足度を高める要素はさまざまにありますが、伊万里市では図書館を教育や学習のための施設と明確に位置付け、その充実を図っていることを説明したのです。
 百花繚乱の図書館界の中で、当館はデジタル化や脱炭素化などといった新しい世の中の動きにも対応しながら、公設直営のブレない姿勢を貫いています。来月6、7日には開館29年目を市民とともに祝います。 (館長 鴻上哲也)

<佐賀新聞 令和6年6月28日付「いすの木のもとで」より>

図書館に行きたい!

 ある小学校の先生が、受け持ちの6年生の子どもから「図書館に行く時間がありません!」と「怒られた」そうです。教師の忙しさはよく話題になりますが、同じくらいに子どもたちも多忙な時間を学校で過ごしています。
 休み時間はトイレや給水、次の準備をしているとあっという間に過ぎますし、楽しいはずの昼休みは、運動会や修学旅行などの学校行事の準備や練習が入ることが多く、特に高学年は自由な時間が取れません。教科の授業時間を確保するため、昔は週に1回あった図書の時間が多くの学校で消えました。
 この子どもは図書館に行きたいのに、その時間が取れないことへの正当な抗議を行ったのです。これに対して担任の先生は、週に1回、朝のホームルームの時間に、クラス全員で学校図書館に行くことを決めてくれました。おかげで、そのクラスの子どもは、本を借りに行く時間が確保され、読書量も増えているそうです。
 ステキな判断をされた先生と、本を読みたい子どものピュアな行動に拍手を送ります。 (館長 鴻上哲也)

<佐賀新聞 令和6年5月31日付「いすの木のもとで」より>

目が滑る

 「目が滑る」という言葉をご存じですか?集中力を欠いた状態で本を読んでいると、同じ行を何度も読んでみたり、逆に飛ばしたりすることがあります。そのように、内容が頭に入ってこない状態を表す新しい言葉で、時折ネットなどで目にしますが、まだ当館の国語辞典には採集されていませんでした。
 ところで図書館の業界では、書架に置かれた本の並びを見て、読みたい本が目に入ってこないことを「目が滑る」ということがあります。つまり、読みたくなるような本が書架にない、または読みたいと思わせる並べ方をしていない時に使われます。
 図書館は、通りすがりの方が思わず読みたくなるような本を選んで購入します。さらには、来館者が食指を伸ばすような本を効果的に並べる技術も駆使しています。ですから、「目が滑らない」ような書架の収集と展示ができているか、ぜひ近くの図書館に確かめに来てください。
 万が一、読みたい本が見つからなかった場合は「目が滑って選べなかったよ」と一言残していかれると、司書のプロ根性に火が付くはずです。 (館長 鴻上哲也)

<佐賀新聞 令和6年5月3日付「いすの木のもとで」より>

寄付の広がり

 図書館には、多くの個人や企業・団体から寄付が寄せられます。毎年、新しい絵本をセットで寄贈してくださる団体もあれば、企業の社会貢献や故人の香典返しなど、その形態や規模はさまざまです。図書館には貴重な資料が豊富にあるので、そこに寄付することは文化の普及と地域の振興に直接貢献できると考えられるからでしょう。
 また最近では、特定のプロジェクトに参画する意義を強調したクラウドファンディングも盛んに行われています。災害支援や人道支援の寄付が広がり、かつてのように寄付は意識の高い人が行うものという偏見はなくなりました。自分にできる範囲での寄付行為や社会貢献が、地域社会に広まりつつあります。
 このような「寄付文化」は、地域全体で社会的課題の解決を支える重要な要素となります。ひるがえって図書館側としては、「寄付をしたい」「協力したい」と思ってもらえるよう成長することが大切なのは言うまでもありません。 (館長 鴻上哲也)

<佐賀新聞 令和6年4月5日付「いすの木のもとで」より>

音読教室

 読書をしていると、美しい言葉や感動的なセリフ、言葉のリズムなどに引かれて、思わず声に出して読みたくなることはありませんか?だれにも邪魔されず一人、本の世界に入り込める至福のひとときです。
 伊万里市民図書館で行われている人気の事業に「いきいき音読教室」があります。毎月20人ほどの参加者が、文学作品の名文や有名な詩歌などを、朗々と読み上げておられます。また、職員が講師となって市内の団体や施設を訪問して行う出張音読教室も好評です。マスク生活が長引き、大きな声を出す機会が少なくなったことへの反動かもしれません。
 音読には(1)脳の活性化と認知機能の改善(2)ストレスや不安の軽減(3)コミュニケーション能力の向上-などの効果が期待されると言われます。個人の成長だけでなく、社会参加にもつながる学びのスタイルです。音読を日常生活に取り入れることで、健康で充実した人生を送りませんか。 (館長 鴻上哲也)

<佐賀新聞 令和6年3月8日付「いすの木のもとで」より>