先日、伊万里市内で暮らす外国の青年たちを対象に、日本語や文化についての理解を深めるワークショップ「えほんでまなぶ日本」が開催されました。日頃から在住外国人の支援と交流をボランティアで行っている「日本語教室いまり」の皆さんの協力を受けて教育委員会が行いました。
昨年、市内で起きた外国人による痛ましい事件の際には、すぐさま市長が冷静な対応を市民に呼びかけ、差別や偏見が広がることはありませんでした。図書館は、人と人とを分ける場所ではなく、そっとつなぐ場所です。多文化を知る本や展示は、誤解や孤立を防ぐ小さなきっかけになります。大切なのは、特別扱いではなく、同じ地域で暮らす一人として迎える姿勢です。
今回のように、絵本を通して楽しく学び合い、互いを知る時間を得ることは、外国人が日本の言葉や習慣・文化について学ぶだけでなく、地域住民との交流を深めることにもつながります。これこそが、多文化共生社会を支える基盤としての図書館の役割といえるでしょう。
(統括管理者 鴻上哲也)
<佐賀新聞 令和8年1月23日付「いすの木のもとで」より>
伊万里市黒川町では、「家読(うちどく)」の実践が根付いています。学校での読み聞かせをきっかけに始まった取り組みは、やがて大人も子どもも読書を楽しみ、感想を語り交流できる心豊かな風土づくりへと広がりました。
本は、知識や感性を育むだけの道具ではありません。同じ物語を共有することで、家族の会話が生まれ、地域の中に共通の話題と価値観が育ちます。読書は個人の営みでありながら、人と人をゆるやかにつなぐ力を持っています。図書館は、その循環を支える拠点でもあります。
来年1月から伊万里市では、文部科学省の委託を受けて「読書のまちづくり推進事業」に取り組みます。これは、さまざまな世代や立場を超えた人たちが、同じ読書空間やイベントを通じて、出会い、対話し、居心地の良い人間関係を築く、そんなコミュニティー形成を目指すものです。読書を通じて、生涯にわたって学びと文化のある知的インフラを整備していく。読書によるまちづくりは、未来への静かな投資と言えるでしょう。
(統括管理者 鴻上哲也)
<佐賀新聞 令和7年12月19日付「いすの木のもとで」より>
図書館といえば、静かな場所というイメージがあります。確かに、静けさは本と向き合い、自分の考えを深めるために欠かせない環境の一つです。しかし、伊万里市民図書館では30年も前から、静寂だけにとらわれない図書館づくりを続けています。
館内にはやわらかなBGMが流れ、ピアノが置かれた子ども開架室では小さなコンサートが開かれることもあります。こうした試みは開館当初から続くもので、音楽や会話を通して本と人がつながる温かな空間づくりを目指してきました。
一方で、静けさを求める方のために、完全静粛エリアも設けています。静けさとにぎわい、そのどちらもが図書館を豊かにしてくれます。言葉と音、孤独と出会いが調和する場所。そこにこそ、これからの「知の広場」の姿があるように思います。
(統括管理者 鴻上哲也)
<佐賀新聞 令和7年10月23日付「いすの木のもとで」より>
興味深い研究論文が発表されました。図書館の蔵書数が多い自治体ほど、要介護高齢者が少ないというのです。慶応大と京都大の研究者が共同で7年間追跡調査したもので、関係者の注目を集めています。
分析の結果、図書館の蔵書が人口当たり1冊(1万人の町なら1万冊)増えると、その地域の高齢者の要介護リスクが4%減少するという相関関係が確認されました。あくまでも相関ですので、因果関係を立証するものではありませんが、図書館やその蔵書の充実が健康長寿のまちづくりに有効である可能性を示しています。
図書館は、市民が文化的な活動に参加するための大切な社会資本で、市民に対して知的な刺激を提供する役割を果たしています。しかも無料で利用できますので、高齢者が毎日出かけることで身体活動を促すこともできます。さらなる研究が待たれますが、図書館の有用性が、また一つ明らかになろうとしています。
(統括管理者 鴻上哲也)
<佐賀新聞 令和7年9月25日付「いすの木のもとで」より>
先日、ある会社員の方から「図書館は利益って出るんですか?」と尋ねられました。ちょっと考えて、こう答えました。例えば、図書館が本を100冊購入したとします。それを10人の市民が借りて読んだとしたら、100冊分の予算で千冊分の読書を提供したことになります。ですから、図書館は、本を借りれば借りるほど読書のパフォーマンスが上がるのです。
企業のように金銭的な利益は生みません。しかし、限られた予算で市民の学びや楽しみを何倍にも広げることができます。子どもが初めて読む物語、大人が再び手にする古典、人生を変える一冊との出合い…そうした価値は、数字には表せません。
図書館は「利益」ではなく、「豊かさ」を生み出す場所です。本を開くたびに広がる知識や感動こそ、私たち図書館員が市民に還元し続けたい、本当の意味での「利益」なのだと思います。
(統括管理者 鴻上哲也)
<佐賀新聞 令和7年8月29日付「いすの木のもとで」より>