読書をしていると、美しい言葉や感動的なセリフ、言葉のリズムなどに引かれて、思わず声に出して読みたくなることはありませんか?だれにも邪魔されず一人、本の世界に入り込める至福のひとときです。
伊万里市民図書館で行われている人気の事業に「いきいき音読教室」があります。毎月20人ほどの参加者が、文学作品の名文や有名な詩歌などを、朗々と読み上げておられます。また、職員が講師となって市内の団体や施設を訪問して行う出張音読教室も好評です。マスク生活が長引き、大きな声を出す機会が少なくなったことへの反動かもしれません。
音読には(1)脳の活性化と認知機能の改善(2)ストレスや不安の軽減(3)コミュニケーション能力の向上-などの効果が期待されると言われます。個人の成長だけでなく、社会参加にもつながる学びのスタイルです。音読を日常生活に取り入れることで、健康で充実した人生を送りませんか。 (館長 鴻上哲也)
<佐賀新聞 令和6年3月8日付「いすの木のもとで」より>
どの図書館にも歴史があります。伊万里では、昭和天皇の即位御大典の記念事業として、昭和3(1928)年に「町立伊万里図書館」が開館しました。
蔵書数はわずか159冊で、借りるには1冊5銭の料金がかかりました。館内には次のような標語が掲示されて読書意欲を鼓舞していたそうです。「真の文化は図書館を背景とす」「一日読まざれば一日遅る」「無知は読まざる報いなり」など、高圧的ですが説得力のある言葉ですね。
また「登館者の心得」には、入退出時は脱帽・敬礼。室内では静粛に。不規律・喧噪(けんそう)は互いに戒め合う。などのルールが10項目挙げられていました。図書館で本を読むということが、余暇の善用だけでなく徳育の面を重視していた時代性が伺えて興味深いです。資料については、年々充実に努め10年後には3000冊に達し、現在は42万点を超えています。 (館長 鴻上哲也)
<佐賀新聞 令和6年2月9日付「いすの木のもとで」より>
本が返却されると図書館員は、まずページをパラパラとめくってチェックします。個人のしおりやカードが挟まっていたり、時にはピーナツの皮がペチャンコになっていたりするからです。下線や落書きもあるので、消しゴムは必需品です。
そんな図書館員からお願いです。誤ってページが破れたり、外れたりした場合は、決してセロハンテープで補修はせずに、そのままカウンターまでお持ちください。傷んだ本を直したいという温かい気持ちは図書館員が受け継いで、専用の道具を使ってしっかり直します。
ただし、コーヒーなどをこぼして修復不可能の場合は、弁償していただくこともあります。つまり、図書館の本は公共物ですので、丁寧に扱っていただきたいのです。机の上で読む。唾をつけた手でめくらない。飲食しながら読まない。ページの角を折らない。クリップを使わない。マナーを守って今年も読書を楽しみましょう。 (館長 鴻上哲也)
<佐賀新聞 令和6年1月12日付「いすの木のもとで」より>
「インターネットがあれば図書館はいらない」という人がいますが、本当にそうでしょうか?
確かにネットだと、自分が必要とする最新の情報を瞬時に手に入れることができますし、その後もお気に入りの情報が優先的に表示されるので便利です。このスピード感と双方向性はネットの長所ですが、一方で情報の不正確さや、検索履歴から利用者の好みが流出するという短所もあります。
そして、これらを裏返したものが図書館の特性ともいえます。つまり、本は出版までに時間がかかりますし、読み手に合わせて表現を変えることもできませんが、責任の所在が明らかで信頼性も高く、未知の分野に触れる機会にも富んでいます。
このように、図書館とネットにはそれぞれ得意・不得意があります。私たちは、互いにその足りない部分を補う形で使いこなしていくことが大切だと思います。 (館長 鴻上哲也)
<佐賀新聞 令和5年12月8日付「いすの木のもとで」より>
人工知能(AI)やチャットGPTなど最新のデジタル技術と、紙媒体の本を扱う図書館は対極にあると思われがちです。しかし、どちらも自分に必要な情報を取り入れて、よりよい生活に役立てるという点では同じです。
実際、公共図書館でも最近は、スマホで読むことができる電子書籍、農業やビジネスなどに必要な専門情報を検索できるデータベースを備えた館が増えています。また、生成AIについては、私たちが道具として適正に使いこなす能力(リテラシー)を身に付けることが大事です。
当館では先日、市民団体の主催で、AIを使って親子で絵本を作るワークショップが行われました。参加者は、テーマや登場人物、読者ターゲットを考えて、どのように指示すればAIに意図が伝わるか苦心しながら、人工知能との共同作業を楽しんでいました。終了後、主催団体代表の「これからは答える力より、問う力が大事」との言葉が印象に残ります。 (館長 鴻上哲也)
<佐賀新聞 令和5年11月10日付「いすの木のもとで」より>