伊万里市民図書館は今年で開館30周年の節目を迎えますが、実は開館前の9年間、市民有志による「図書館づくり運動」が行われていたことはあまり知られていません。
その中身は、有識者を招いての学習会、先進図書館の見学会、市長選立候補者への公開質問状など、草の根の学習と活動を重ねながら、市民運動の新境地を切り開いていました。それは、行政に対して、質問や揺さぶりをかけて要求を通そうとする従来型の市民運動ではなく、市民と行政がともに汗を流して素晴らしい図書館を作ろうとする姿勢を貫いたことです。
こうしてできた伊万里市民図書館は、「伊万里をつくり、市民とともにそだつ、市民の図書館」を合言葉に、図書館友の会組織である「図書館フレンズいまり」による協力と提言のもと、さまざまなボランティア団体との「協働」がずっと続けられてきました。
これからの30年も、伝統の上に新たな価値を創造することでさらなる成長を遂げようとしています。多彩な記念事業も市民の皆さんと計画中です。ご期待ください。 (館長 鴻上哲也)
<佐賀新聞 令和7年1月17日付「いすの木のもとで」より>
作家の柳田邦男さんが講演の中で、「絵本には、人生に3度読むといい時期がある」と話されました。1度目は幼い時、2度目は子育ての時、そして3度目は年老いて孤独や病にさいなまれた時だそうです。
絵本は、効果的な絵と短い文章で構成されているので、集中力が低下しがちな高齢者でも無理なく楽しむことができます。しかも、その内容は柳田さんが「絵本は、作家が人生で一番大事なことを書いている」と言うように、心に響くものがあります。
市内でも最近は、高齢者福祉施設やサロンなどで絵本や紙芝居の読み聞かせを行う所が増えました。私も時々読みに伺いますが、子ども以上に積極的に反応しながら聴いてくださる印象があります。多幸感を味わい、他者と交流する機会を提供できる絵本や紙芝居は、高齢者にとって人生をより豊かに生きるためのツールと言えるでしょう。 (館長 鴻上哲也)
<佐賀新聞 令和6年12月13日付「いすの木のもとで」より>
「うちどく」という言葉を聞いたことはありますか?家族で1冊の本を読み合い、感想を交流することで親子の絆を強めようとする取り組みです。伊万里市では2007年から、各学校で家庭と連携しながら行われています。
地域によっては、読み聞かせグループなどのボランティアが加わって、活動の場が広がってきている所もあります。そこで、本年度からは、地域ぐるみで子どもの読書を推進する「まちどく」という視点も加えることにしました。
12月7日には、市内の黒川コミュニティセンターで「第1回 佐賀うちどくまちどく講演会」が開催されます。読書離れが叫ばれる中、身近な所で、いつでもだれでも本に触れることができ、子どもの読書を家庭・学校・地域ぐるみで応援する「まちどく」に期待が高まります。 (館長 鴻上哲也)
<佐賀新聞 令和6年11月15日付「いすの木のもとで」より>
公共図書館は、自治体の予算で運営されるので、貸し出しはその地域に在住・在勤の方に限るなど、納税者である住民へのサービスが優先されます。ということは、その地域に住んでいなくても相応の税負担や寄付をすれば、住民並みの図書館サービスを受けられるという理屈にもなります。
実際、伊万里市では「ふるさと納税」で7000円以上寄付をした方は、返礼品とは別に図書館の利用者登録ができ、市外の方であっても1年間は市民と同様に本を借りることができます(金額によって有効期間は異なります)。
地域に関わってくれる交流人口と読書人口が増えることは、人口減少に悩む地方自治体にとって極めてありがたいことです。自分の読書環境を充実しながら、地域貢献もできる「ふるさと納税」による利用者登録制度。ご登録、お待ちしております。 (館長 鴻上哲也)
<佐賀新聞 令和6年10月18日付「いすの木のもとで」より>
「人間は考える葦(あし)である」とは、パスカルの有名な言葉ですが、インターネットの普及以来私たちは、ちょっとわからないことがあってもすぐに答えを見つけられるようになりました。
しかし、検索で得た正解は、自分で考えて出したものではありません。考えるために欠かせない条件は、だれかが書いたものを読んだり、だれかと議論したり、まとめて書いたりすることです。
実際、図書館では、読書会やワークショップ・懇談会・グループ学習会など、さまざまな人々が話し合いながら、思索を深める活動が多く行われています。先日も、環境問題と図書館の関係について市民と行政が議論する機会がありました。
図書館の存在意義は本を読むだけでなく、このような場を通じて、自由と民主主義が担保されることにあるのではないでしょうか。「考える市民になるためにこそ、公共図書館は存在する」(前川恒夫著『図書館の発見』より) (館長 鴻上哲也)
<佐賀新聞 令和6年9月20日付「いすの木のもとで」より>