絵本と中学生
伊万里市教育長 松本 定
私はずっと小学校で教師を務めてきましたが、退職前の最後3年間だけ中学校に勤めました。
中学校の校長として2年目。なかなか教室に入れず別室で学んでいる子どもたちが終業式に参加すると聞き、この子たちと全校生徒に応援のメッセージを届けたくて、式の中で「だいじょうぶ だいじょうぶ」を読もうと思いました。不安や心配があっても、おじいちゃんの「だいじょうぶ だいじょうぶ」の言葉で成長していく子供の絵本です。
“中学生に絵本を読む”ことはどうなのかと自問しながらも、読みたい気持ちが勝りました。成長した男の子がベッドのおじいちゃんに語り掛ける「だいじょうぶ だいじょうぶ」の場面では私も声が詰まりましたが、静かに聞いていた全校生徒から、思いもよらず多くの拍手をもらい、中学生にも絵本の心が届いたことを確信しました。
その後も、いじめやからかいを感じた時に「からすたろう」を、真に美しい心を感じ取ってほしいと思った時に「泥かぶら」を読みました。生徒たちは実にやさしい顔で聞いてくれました。
そして、いよいよ退職直前の最後の卒業式。実はいつか読みたいと思いながら機会を逸していた絵本があり、それを中学校卒業式の式辞に読むことは果たして間違ってないのかと迷いました。しかし、どうしても読みたくて、大好きな絵本「ちょっとだけ」を卒業式で読むことにしました。生まれた妹にかかりっきりのお母さんを見ながらひとりで懸命に頑張る女の子、その成長をひそかに応援しながら最後にしっかり愛情を注いでくれる母親。親子が伝えてくれるメッセージは、卒業生にも、在校生にも、そして保護者の皆さんにも届いてくれたかと思っています。
全校朝会や始業式、終業式、そして卒業式でも中学生に絵本を読みましたが、思春期、反抗期を迎えた中学生にとっても、絵本の力は大きいと感じました。