平成25年12月号



さとうまきこ/作 偕成社

 中学に入学してからすぐに、不登校になってしまった中一の橋本千種は、毎日を家の中にこもって過ごしていました。
そんなある日、「千種よ、千種よ。めざめなさい。めざめるのですよ。」と公園のクスノキの精霊から揺り起こされることから物語は始まります。
精霊から千種のもとへ次々に送り込まれる「不思議なものたち」。カラス、ネコ、ヤモリなどの化身たち・・・。その者たちの不幸な身の上話を聞かされていくうちに、千種の心は解きほぐされ、徐々に徐々に、前向きに、希望に満ちていきます。
思春期の女の子の揺れ動く心を描き出した青春物語です。



河出書房新社

 死について、何を学び、これから先をどう生きるのか・・・。
誰も死んだことはないけれど、精神科医、作家、理学博士、大学教授などの18人の先生と考えてみた14歳の世渡り術シリーズの最新刊。
いじめや自殺、身近な人の死など、思春期を迎え、生きることの難しさに直面する10代に向けて、いろいろな角度から専門家たちが、特別授業を開講しています。
「今まで地球上に生まれた人を死者と生者に分けるなら、死者の方が圧倒的に多数。そこで思うのは、死ぬことが特殊なのではなく、もしかすると生きていることの方が特殊なのではないか」という作家の酒井順子さんの言葉には、死までの距離を感じると共に、生きることの大切さを考えさせられます。



朱川 湊人/著 PHP

 妻娘に家を出ていかれて、滅入ってしまっているサラリーマンの私は、幸せだった5年前の妻と娘にそっくりの親子から「パパー」と手を振られて、ビルの中に入っていこうとするが、そこは、さびしい人の心につけこんだ魔の世界だった(黄昏の旗)。その他、幽体離脱をする恋する男性の話や不思議な転校生に未来を救われる話などなど・・・。
どんな時代にも、どんな場所にでも、映画や本のような作られた世界の中にでも自由自在に行き来できる「旅行者(トラベラー)」である少年が鍵をにぎる連作小説。
ちょっと不思議で、ちょっと怖い、でもなぜか暖かい朱川ワールドに引き込まれてしまいます。



はやみねかおる他/共著 講談社

 中学生の松本由弦には、幼稚園時代からの幼なじみがいた。「三雲怜悧」。しかし、怜悧は、「消滅性人格転換症」という病に侵されており、三年に一度それまでの記憶がすべて無くなってしまい、全く別の名を持つ人格になってしまうのだった。
六人の怜悧と信頼関係を持って親友として過ごす由弦。
彼の苦悩と心温まる絆が、胸に迫ってくる短編「時限の友」他、「友情」をテーマに五人の作家たちが書き下ろしたYA世代に贈る作品集です。