平成25年1月号



篠原勝之/著 講談社

 大地震の津波によって両親を一度に亡くし、愛犬のパンと二人きりになってしまった13才の拓海。
突然、大声で叫んだり、自分の体を傷つけたり、魔物に操られたかのようにモヤモヤが体中を暴れまわり、他人に迷惑をかけてしまう生活を送っていた。
そんな時、遠い親戚にあたるひいおばあさんに引き取られ暮らすことになる。山奥で暮らし、ヤマンバのように飛び回る「ヒサばあ」の突き放した深い愛情や、自然の神々に抱かれて、拓海はたくましく成長していく。
今、忘れてしまいがちな、自然と共存する作法(人の営み)を教えてくれる物語です。



田島伸二/作 星の環会

 大亀のガウディは、大都会の水族館で何不自由なく暮らしていたが、30年前まで住んでいた海に帰りたくなり、他の魚たちの協力を得て、なんとか南の海にたどり着く。
しかし、そこは人間の行う核実験によって死にかけた海になっていた。
20年前に刊行され、世界中で大きな話題となった「大亀ガウディの海」の内容を、よりわかりやすく書き直したものです。
「地上で始末におえなくなったゴミを海に捨て続ける人間。見えない世界で恐ろしいことが起きると、いったん見える世界になった時、取り返しのつかないことになる。」
作者の強い警告が発せられている環境物語です。



エレナー・アップデール/著 評論社

 イギリスの小さな町に住む11才の少年ジョニーは、父親を第一次世界大戦で亡くし、母親と二人、貧しい暮らしをしていた。
ちっぽけで、体力がないためにいじめられていた彼は、ある日「あっという間に背が伸びる」という新聞広告に申込み、お金をだまし取られてしまう。
お母さんにお金の心配をさせたくない一心で、思いついた悪知恵の商法。天才ジョニーは次々と浮かぶアイデアをもとに、新聞広告でお金を手に入れていく。
そんな時お母さんの職場で殺人事件が起こり、ジョニーと母親は事件に巻き込まれてしまう。
「お母さんを助けられるのは僕だけなんだ。」
ジョニーの天才的なアイデアが、真犯人を探し出す。



佐野洋子/作・絵 小学館

 自由ってなあに。文化ってなんだろう。
豚は一人で林の入り口にずーっと住んでいた。周りにたくさんのどうぶつたちがやってきて、木を切り倒し、きれいな赤い屋根の家を建て、豚小屋に来ては「クサーイ、クサーイ」と言い出した。
豚は、キツネとウサギの夫婦に無理やり連れだされ、背広を着せられて、家庭を持たされ、仕事に就くことになった。『「しかし」とか「よくかんがえてみますと」とかの言葉は、今の幸せをこわしますぞ。深く考えないことです」』
豚は耐えきれず、元の世界へ・・・。
風刺たっぷりの作品が、洋子さん自身が遺した30点の絵でよみがえりました。25年前に出版された息子・広瀬玄さんの絵と比べてみるのも楽しい一冊です。