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おすすめの本
 

No.766  令和6年7月

『読んでばっか』『帆立の詫び状 おっとっと編』
 江國 香織/著  筑摩書房

 

タイトル通り、本を読むことばっかりしているという著者の、読書の喜びと本への愛情に溢れた一冊です。何より、取り上げられている本のジャンルが小説・詩・絵本からミステリーまでと幅広い!しかも、今まで自分が読んだことのない本には好奇心をそそられますし、読んだことのある本が出てくると、著者と感想を交流しているようで楽しくなります。直木賞はじめ数々の文学賞を受賞している文章の名手だけに、紹介文そのものが単なる読書案内ではなく珠玉のエッセイです。まさに「読んでばっか」いる方、お待たせいたしました。  

(T.K)

 新川 帆立/著  幻冬舎


 世界を旅しながら執筆を続ける著者のエッセイ集、第2弾です。行く先々で次作のネタ探しをしたり、建造物を見てはアリバイトリックに使えそうだと考えたり…息抜きのはずの旅行ですが、自然と取材になってしまうのは作家の性なのでしょうか。
 商業作家である以上避けられないのが、自分が生み出した作品への批判的な意見「アンチレビュー」。しかし、そんな意見もどんと来い!!その読者の熱量が、これからの出版業界を支えるのだと著者は語ります。
 幼いころから憧れだったという「作家」への愛と誇りが感じられる1冊です。  

(A.K)

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』『海賊の日常生活』
 三宅 香帆/著  集英社 

  

読書が大好きだったのに、気付いたら最近全然本を読めてない…。読書好きの大人が陥りがちのこの事態。本を読むために会社勤めを辞めた著者が、日本の労働環境にメスを入れます。
 社会人が本を読めないなら、これまでの日本人はいつどのような本を読んでいたのか。明治時代から現代まで順にさかのぼり、当時の社会情勢やベストセラーから、労働と読書の関係を紐解いていきます。立身出世のための読書から、知識を得るため、自己啓発のため。時代によって人々が読書に求めるものは様々です。では現代人は読書に何を求め、どうすれば働きながらでも本が読めるのかを探ります。
 働きながら本を読むコツも掲載されている、読書を続けたい社会人に贈る一冊です。

(S.S)
 スティーブン・ターンブル/著 
 元村 まゆみ/訳  原書房

 
 海賊といえば映画やアニメーションにも取り上げられ、誰にも束縛されず自由気ままに生きているという印象があります。しかし、本の中で紹介されている船上での様子を見てみると、歴史上の海賊は厳しい環境の中で、常に命の危険を感じながら過ごしていたことが伝わってきます。さらに海賊の必需品にも注目して、それぞれ目的や用途も詳しく載っています。また、海賊の本分である海での戦いに加え、実は陸での戦いも多かったことが記録されています。ヨーロッパやカリブ海で活躍した海賊がよく知られていますが、日本の倭寇も登場していますので、海賊のリアルに近づける貴重な一冊となっています。

(K.S)


『老いの深み』『国道沿いで、だいじょうぶ100回』
 黒井 千次/著  中央公論新社  

 

「老い」をテーマにエッセイのシリーズを書いた著者は92歳。4冊目となる本書では、時代の流れや、移りゆく社会を横目に、自身に起きる変化を見つめています。少しずつ縮む散歩の距離、買い物の支払いを機械でさせられる時に感じるなんとなく割り切れない気分。現代の老いの姿や日々の出来事、それについての感想が率直に書き留められています。
 著者ならではの茶目っ気がある深い思考は、誰にでも来る老いを見つめる一冊となっています。


(Y.K)

 岸田 奈美/著  小学館  

 

車いすユーザーの母と知的障害のある弟、そして著者の3人からなる岸田家。弟がカレンダー作りで大金を稼いだり、怪しい病院で注射を打たれたり…。ハプニングが絶えない家族の日常が、軽妙な文章で愛情たっぷりに綴られています。その愛のある目線は家族以外にも向けられ、他者への想像力を持つことの大切さも強く感じさせてくれます。
 だいじょうぶじゃない日々も、祈りのような「だいじょうぶ」を重ね、いつかだいじょうぶになっていく。笑いと涙とともに、そんな確信を持たせてくれるお守りのような厳選エッセイです。


(Y.M)