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おすすめの本
 

No.750  令和5年9月

『日本のサカモト 坂本龍一追悼号』『自然知能』
日販アイ・ピー・エス

 2023年3月に亡くなった音楽家、坂本龍一。イエローマジックオーケストラのメンバーとして、日本人初のアカデミー賞作曲賞受賞など、世界のサカモトとして名を知られていることもあり、春の訃報には世界中が悼みました。本書は、彼と交流があったデイヴィッド・シルヴィアン、小山田圭吾など音楽家のみならず、哲学者、映画監督など様々な人が坂本龍一について語ります。
 本人が好んだ一節として、訃報とともに紹介された『芸術は長く人生は短し』その言葉のように、これから長く続くであろう残された芸術をかみしめるような一冊です。
(Y.M)
外山 滋比古/著  扶桑社

 昨今、AIに対する世間の認識が大きく変化しています。著者は、そのずっと以前に人工知能がもたらす機械的な知能が、本来人間が持っている自然知能を脅かすのではないかと論じています。人間の知能の発展と喪失のサイクルを独自の視点で語る本書は、現在より少し前の視点でありながら、私たちが抱えるAIに対しての不安を明確にし、何と向き合うことが必要なのかを問うような形になっています。
 先見の明をも思わせる本書は、私たちの中にあったはずの自然知能つまり、Natural Intelligenceを再確認する一冊となるかもしれません。
(H.W)
『中学校の授業でネット中傷を考えた『山下惣一 百姓の遺言』
宇多川 はるか/著  講談社

 SNSの広まりとともに社会問題と化している誹謗中傷。「自分や身近な人たちが加害者になることは絶対にない」と、果たして言い切れるでしょうか。
 この本は、私立中学校の国語の時間に実際に行われたネット中傷の授業を、新聞記者が取材したものです。過去と現在の事件を取り上げながら、なぜネット中傷が起きるかについて、先生と生徒が活発な議論を交わしていきます。道具としてのネットの問題のみならず、心理学に基づいた人間の欲求や正義感の暴走など、議論は深く多岐に渡ります。
 ネット中傷の加害者にならないために、他人事ではなく自分事としてこの問題を考えてみましょう。
(S.S)
山下 惣一/著  家の光協会

 2022年7月、農民作家の山下惣一が亡くなりました。
 「自分は寿命で死ぬのであり、病気で死ぬのではない」と、家族にいつも話したそうです。アジア農民交流センター共同代表の菅野氏は、「自分に与えられた天命を生ききった山下さんらしい話」と語ります。
 「自らの食は自ら賄う、個人にとっても国家にとっても生存の基本」という信念を貫き、著者は百姓を続けます。豊作と不作の両方がある儲からない農業で生涯を生きて得た教訓、道楽農業とは。本書は発表したエッセイやルポ、対談などを新たに編集し、小説「減反神社」も収録。時代ごとの提言や農業への思いなど、百姓・山下惣一の遺言です。
(T.M)
『文豪たちの「九月一日」 関東大震災百年』『おばちゃんに言うてみ?』
石井 正己/編著  清水書院

 東京・横浜を中心に激甚な被害を与えた未曾有の災害、関東大震災。それから百年…。当時の文豪たちは、この日をどのように書き残したのでしょうか。
 炎に包まれ、一面焼け野原になった都市、山崩れや津波にあった美景の避暑地、そして話に尾鰭をつけた流言飛語が及ぼした人災。当時の被害の状況や心情が、赤裸々に描かれています。
 過去を知り、歴史を学ぶこと。それが防災へとつながり、やがて復興への力となります。今だからこそ、文豪たちの第一級の歴史資料を読んでみませんか?
(Y.N)
泉 ゆたか/著  新潮社

 生まれも育ちも東京の沙由美は、夫の故郷大阪で生活を始めました。東京ではカッコイイ自分でいられた暮らしが一変。言葉も感覚も違う土地に馴染めずにいました。そんなある日、派手な風貌の、まさに大阪のおばちゃんという感じの小畑とし子に声をかけられます。お構いなしに詰め寄るとし子に戸惑いますが、彼女と話すうちに沙由美の心のわだかまりはとけていくのでした。
 グイグイと距離を近め、思ったことを口にするとし子おばちゃんですが、迷える人々に一歩を踏み出す勇気を与えてくれる連作短編小説です。
(Y.O)