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おすすめの本
 

No.736  令和5年1月

『遅刻する食パン少女』『生きる意味』
田丸 雅智/著  光文社

 「高校生になったら、恋をしてみたい。俺は食パンをくわえて遅刻ギリギリに走る少女と、曲がり角で衝突して、そして恋に落ちるんだ!」
 そんなことを想像する友人に付き合っていたら、伝説の少女がこの街にやってくるという。そう、食パンをくわえて50年も一度も止まらずに、光の速さで疾走し続ける、あの少女が…。
 一度は誰もが聞いたことがあるシチュエーションが、斜め上の展開で、まさかまさかの結末に?!いろんな「あるある」が、大胆アレンジ。抱腹絶倒間違いなしのショートショートです。
                 (Y.N)
姜 尚中/著  毎日新聞社

 新型コロナウイルスのパンデミック、ロシアによるウクライナへの侵攻、自然災害、物価高騰など、世界的なものから生活レベルまで、わたしたちは様々な問題を抱えていて、まさに逆境の時代を生きています。そんな時代だからこそ、真剣に「生きる意味」を考える必要性を著者が説いています。
 時代の矛盾を暴き出すようなものでなく、漱石や子規の作品に触れ、著者自身のライフスタイルの中で感じたこと、経験したことを通して生きる意味について語りたいという思いで綴られたエッセイです。
                 (Y.O)
『美術家たちの学生時代』『プリズン・ドクター』
功刀 知子/著  芸術新聞社

 第一線で活躍する美術家たちは、どのような学生時代を歩んだのでしょうか。赤裸々に明かされる苦悩の数々、共通するのは漠然とした自分に向き合い自己を掘り下げ続ける諦めない姿勢です。
 約30年にわたり美術業界で取材を重ねてきた著者は、巧みな質問によって美術家たちの根源的・本質的な姿を引き出します。時に難解な視点で語られる独自の世界観・美術観もわかりやすく紐解きつつ、その美術家「らしさ」を濃密に感じる対話が収められています。「自分の表現」を見つけるまでの試行錯誤と、決して折れずに自己を表出し続ける美術家の底知れぬ熱量に圧倒される一冊です。
                 (M.N)
おおたわ 史絵/著  新潮社

 刑務所・少年院などの矯正施設内で働く医者、矯正医官。父親から継いだ医院を閉院した後、矯正医官になった著者は塀の中の診察室で様々な受刑者を診療します。防犯のために傘をささない・名前で呼び合わない施設内、〈文身〉〈傷痕〉〈玉入れ〉など、独特の項目がある受刑者カルテなど、普通の病院と少し違う部分もありますが、治療を必要とする人たちがいる、医療と向き合える場所であることは他の医療現場と同じでした。著者と薬物依存症だった母親との関係や、今までの医師人生を振り返りながら、受刑者たちの健康と矯正教育の改善のために奮闘する日々を綴った一冊です。
                 (S.M)

『日本史を暴く 戦国の怪物から幕末の闇まで』『わたしのペンは鳥の翼』
磯田 道史/著  中央公論新社
      
 歴史には裏があり、歴史は裏でできているという著者。書いてあるのは歴史の裏ばかり。日本史の授業で習う表の歴史に書いていない肝になる史実とは。日本人が地球は丸いと、いつ、どのように知ったのか、史実はいつも無視されていると語ります。本書は、毎日、著者が古文書のホコリと戦いながらアナログな手法で一つずつ集め、日本史のある面を暴いていったものです。「戦国の怪物たち」「江戸の殿様・庶民・猫」「幕末維新の光と闇」「疫病と災害の歴史に学ぶ」の全4章からなり、光秀登場の黒幕、甲賀忍者も勤め人、感染症から藩主を守る等、読者に戦国、江戸、幕末の新知見を得てほしいと願う歴史の裏側です。
                 (T.M)


 
古屋 美登里/訳  小学館

 アフガニスタンの女性作家18名による23の短篇集。原著は紛争地域の作家育成プロジェクトによる企画編集で、小説を描きたい。という女性たちを広く募り、それぞれアフガニスタンの言語で書かれた物語を英語に翻訳し、一冊にまとめました。本書はそれをさらに日本語に翻訳した重訳作品です。作品の中には死や暴力、差別がある日常を描いたものもあり、なかには読んでいて苦しくなる場面も、というより、読んでいて苦しくなる場面がほとんどです。それでもこの23編の物語 には「私たちから想像力を奪うことはできない」という強さを感じます。ペンは剣より強し。そうであってほしい。そうあってくれないと困る。そんな祈りのような一冊です。     
                 (Y.M)