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おすすめの本
 

No.729  令和4年8月

『修羅奔る夜』『アメリカ分断の淵をゆく 悩める大国・めげないアメリカ人』
伊東 潤/著  徳間書店

 
故郷青森県を離れ、東京で派遣社員として働く主人公、紗栄子の元に「兄が倒れた」との知らせが入ります。紗栄子の兄は畳屋で働きながら、祭りの時期にはねぶたを制作する「ねぶた師」です。しかし、兄の脳には悪性の腫瘍ができていて、一刻も早く治療を行わなければなりません。治療を優先すれば、ねぶたを制作することができないという葛藤の中、ねぶたを作りたいという兄の強い思いを聴き、紗栄子は仕事を辞めて、故郷に戻り、兄をサポートしながら、大賞を獲ることを目指します。ねぶた師だった父から教えを受けた2人のきょうだいは、ねぶたを作り上げることができるのでしょうか。青森県民のねぶたにかける熱い思いが伝わってくる作品です。
                  (K.S)
國枝 すみれ/著  毎日新聞出版

 ドラッグ、人種差別、性犯罪など、アメリカが抱える社会問題を取材する中で、著者は様々な背景・立場を持つ人々に出会います。スラム、白人至上主義組織 KKKの巣窟、温暖化で沈む島、各地に根を張り生きる人々の姿からアメリカの現状を読み解きます。
 ボーン・上田記念国際記者賞を受賞した著者の、ジョージ・ウェラーの「幻の原爆ルポ」や、核実験に従事した被ばく退役軍人、核実験場や核施設の近くに住んでいた「風下住民」への取材は特に読み応えがあります。アメリカに対する固定観念が崩れるとともに、アメリカという異なる世界に浸ることで日本についても客観的な視点を提示してくれるルポルタージュです。
                  (S.M)
『日本人の真価』『75歳交通誘導員まだまだ引退できません』
藤原 正彦/著  文藝春秋

 
日本は一体、どこへ進むのでしょうか。コロナウイルスは?世界は?平和と外交は?私たちには、どんな未来が待っているのでしょうか。
    教養と品格とユーモアがたっぷりのエッセイ集。日本人らしい情緒も忘れてはいません。私たちの美意識と武士道精神で、日本は再生できると、著者は言います。
    英語教育のこと、隣国との関係のこと。混沌とした今だからこそ、読んでスカッとしませんか?『国家の品格』で話題になった著者の最新作です。
                   (Y.N)

柏 耕一/著  河出書房新社

 交通誘導員である著者は、10年のキャリアがある75歳。所属する警備会社の年齢は70代以上が80%。同僚には有名企業を辞めワケありの人や85歳の人もいます。様々な前歴・前職を持つ人が集うこの世界。やる気があっても若い人のように体が動かない。仕事の覚えも悪い。ただ立って誘導するだけではなく、危険との隣り合わせにヒヤッとする事もある。ドライバーからの罵声や人間関係のストレスもあり、交通誘導員の知られざる実態を知ることができます。日本の高齢化社会問題もあるのかもしれないと考えさせられます。『交通誘導員ヨレヨレ日記』の続編です。 
                  (Y.K) 
『図説アルプスのハイジ』『呑み込まれた男』
ちば かおり・川島 隆/著  河出書房新社

 『アルプスの少女ハイジ』といえば絶大な知名度を誇る、日本のアニメ版ハイジを思い浮かべる方が多いかと思いますが、原作は19世紀末にスイスの作家ヨハンナ・シュピーリが発表した『ハイジ』です。日本でも1920年に児童向け小説として発表されて以来、これまで多くの画家がハイジの絵本や挿絵を手がけてきました。
 本書では魅力あふれるハイジの物語をたどりながら、19世紀スイスの実際の暮らしや風景を交えて、作品を深く掘り下げます。アルムの山小屋やヤギなど、お馴染みの世界観をより深く味わえる一冊です。
                  (K.A)
エドワード・ケアリー/著  古屋 美登里/訳
              東京創元社

 イタリアの児童文学『ピノッキオの冒険』に登場するジュゼッペ爺さんを主人公にした小説です。ジュゼッペは、学校に行ったきり帰ってこないピノッキオの行方を追って小舟で沖へ漕ぎ出します。しかし、小舟ごと巨大な魚に呑み込まれてしまいました。彼は魚の腹の中で、閉塞感と絶望感に苛まれながら自身の過去を振り返り、ピノッキオとの再会を祈りつつ、手近にあるもので数々の作品を生み出します。原作にはないジュゼッペの心情や人生が、細部にわたって思い描かれています。
                  (Y.O)