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おすすめの本
 

No.724  令和4年6月

『かれが最後に書いた本』『ウソをつく生きものたち』
津野 海太郎/著 新潮社

 80代も半ばを過ぎると「老いる」というより「もうすぐ死ぬ人」として生きているという感覚が強くなったという著者。若い頃に感じた友人たちの死への喪失感は、今の方が死んだ彼らとのつながりを強く感じると語ります。本書はウェブ版雑誌『考える人』の連載をまとめた2冊目。連載期間がコロナ禍と重なり、日々の暮らしも息苦しいものに変わりました。樹木希林、橋本治、和田誠、鶴見俊介、友人たちとの出会いや印象深い出来事、そして本のこと。本を開くと、また彼らに会うことができるという著者の読書案内です。
(T.M)
森 由民/著 村田 浩一/監修 緑書房

 毒を持つ危険な生きものには、わざと派手な色や模様を身につけ、「私は危険ですよ」とアピールしているように見えるものがいます。これを警告色といいます。しかし中には、毒を持たない無害な生きものが毒を持つ他の危険な生きものをまねて、ありもしないこと(毒)をアピールしていることもあります。これは「ウソ」ですね。
 本書では「ウソ」という人間界のことばを借りて、多種多様な生きものたちのユニークな生態と、生存をかけた“だましあい”の世界を解説しています。にぎやかで時に恐ろしい、生きものたちのウソの世界に引き込まれる一冊です。
(M.N)

『とあるひととき 作家の朝、夕暮れ、午後十一時』『日本語名言紀行』
三浦 しをん ほか/著/ 平凡社

 空気がピンとはりつめた、朝のひととき。空が茜色に染まり、家路を急ぐ夕暮れ時。そして、シンと静まりかえった部屋の、柔らかな明かりに包まれる午後11時。 
 人気作家13人が描く、そのひととき、その瞬間を切り取ったアンソロジーです。
 定時にかけた電話の記憶、登校する子どもたちの声、ペットとの大切な時間。忘れられない記憶と、空気と時間が交じり合う新感覚のエッセイ集です。
(Y.N)

中村 明/著 青土社
 

 著者がこれまでにめぐりあった数々の名言をテーマごとにまとめ、説明を交えながら紹介していく1冊です。平安時代の和歌から現代文学まで、幅広い分野から名文句を集めています。
 「春はあけぼの」「トンネルを抜けると雪国であった」など一度は見聞きしたことがある言葉もあれば、はじめて出会う言葉もあり、日本語の名所を旅するような気持ちになります。ことわざ・比喩表現・オノマトペ、心をつかまれる言葉と日本語表現の数々をお楽しみください。
(S.M)

『左川ちか全集』『子どものための居場所論』
左川 ちか/著 島田 龍/編 書肆侃侃房

 明治44年に生まれ10代で翻訳家として活動をはじめ、わずか24歳で夭折した詩人、左川ちか。詩集は世界各国で出版され、海外での評価が高い詩人です。「死は私の殻を脱ぐ」「すべてのものが嘲笑してゐるとき、夜はすでにわたしの手の中にゐた。」など一行で撃ち抜かれるような言葉は萩原朔太郎や西脇順三郎に評価され、死後に追悼文が寄せられました。本作は詩だけではなく、散文、書簡、翻訳がすべて収録された「全集」の名にふさわしい一冊。特筆すべきは、翻訳文です。V・ウルフの文章に特徴的にあらわれる幻のヴィジョンの翻訳の的確さと美しさ。当時のモダニズム文学を翻訳していた著者の言葉に対する感性に感嘆せざるをえません。
 (Y.M)
阿比留 久美/著 かもがわ出版 

 貧困、虐待、教育格差、ヤングケアラーなど子どもたちを取り巻く環境は厳しさを増しています。本書は、そんな困難な時代に生きる子どもや若者の「居場所」について考察した一冊です。まずは、そもそも居場所があるのかと現況に目を向け、著者自身の子育ての経験から見えた子どもの居場所に対する大人のかかわり方に言及。そして、子どもたちが居場所を感じられる社会づくりを論じています。
 居場所づくりには大人の考えを押し付けるのではなく、子どもとの信頼関係をつくることから始める必要があるようです。
(Y.O)