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おすすめの本
 

No.721  令和4年3月

『消えた歌の風景』『あなたのルーツを教えて下さい』
内館 牧子/著 清流出版

 大正10年に作られた『赤とんぼ』には、「十五で姐やは嫁に行き」という歌詞があります。また、昭和16年に作られた『船頭さん』は、「今年六十のおじいさん」と歌っています。このように歌詞が時代に合わなくなったり、メロディーが現代の嗜好に添わないなどの理由で、多くの童謡や唱歌が歌われなくなっています。音楽教科書も、若者の感覚に合った現代の曲に代わってきています。本書では、そうした懐かしい歌を取り上げ、歌詞に織り込まれた日本の原風景や、かつての日本人の思いを伝えています。著者は、古きよき歌がすっかり忘れさられてしまうことを危惧し、歌い継ぐことの大切さを力説しています。
               (N.K)


安田 菜津紀/文・写真 左右社
 
 著者の父は、日本国籍を取得した在日コリアン。子どもの頃、父が自分を連れて投票に出向くことを不思議に思っていました。父は何に問題意識を持ち、何を大切に1票を投じていたのでしょう。父が残した「ルーツとは何か」という問いは、取材に応じた方々との出会いにつながります。著者はコロナ禍の中、「外国人」という大きな主語で人をくくり、合理性のない感染対策で差別や偏見を煽った2つの報道に疑問を感じます。この本では、日本社会に存在する分断と、それに向きあい自分なりの声をあげようとする人たちをルーツと共に紹介します。『なぜ、父は自身の「ルーツ」を隠してきたのか?』『なぜ、「ともに」を目指し続けるのか?』『なぜ、その命は奪われたのか?』等、15人の「共に生きること」を見つめています。
                 (T.M)
『東海道五十三次いまむかし歩き旅』『陽だまりに至る病』
高橋 真名子/著 河出書房新社

 江戸時代の五街道の一つ東海道は、江戸の日本橋から京都の三条大橋に至る道でその距離492㎞。10年前に大阪在住の著者は、一人暮らしの父がいる東京へ通う生活を続けるうちに、東と西を結ぶ旧東海道を自分の足で歩こうと決意します。毎月1日から3日程度の旅を続け、およそ1年がかりで完歩し、西から東への復路と脇街道など含め千キロを超える徒歩の旅を達成しました。高層ビルや交通量の多い幹線道路を横目に、宿場時代の雰囲気を留めるような町並みや自然豊かな風景、語り継がれる伝説などに触れ、その地の歴史や文化に魅了されていきます。現代の旅人がその目で見て肌で感じた東海道の魅力を一緒に味わってみませんか。        (Y.O)
 
天祢 涼/著 文藝春秋

 小学5年生の咲陽は、「父親が帰ってこない」と言う同級生の小夜子を心配して家に連れて帰ります。コロナを気にする母親に言い出せず、そのまま自分の部屋にかくまってしまいました。一緒に過ごしていると、ニュースで自宅近くで殺人事件が起きたことを知るのです。咲陽は、小夜子の呟いた一言が気になり始めます。突然父親がいなくなったのも、この事件との関係があるのでしょうか?少しずつ少女たちが追い詰められていく様を、今の社会が抱えている問題と重ねて考える物語です。       (Y.K)




『ゾウが教えてくれたこと』『ヒノマル』
入江 尚子/著 化学同人

 ゾウの知能を研究する著者が5章に分けて、ゾウの生態や習慣、知能を紹介しています。人間の「右利き」「左利き」と同様、利き鼻があったり、物まねの能力を持っていたり、絵を描けるゾウもいます。 最終章では、絶滅から救おうと活動する特定非営利活動法人「アフリカゾウの涙」を紹介します。ピアノの鍵盤等の素材として象牙が使われていました。今は代替材料へと置き換わっていますが、密猟が絶滅の要因の一つです。この本を通して、動物たちを尊敬し愛する気持ちを、より一層深めてほしいという著者の気持ちが込められています。   (M.O)
古市 憲寿/著 文藝春秋

 昭和18年、戦火の勢いを増長させていた時代。愛国心を疑うことのない勇二は、日本の在り方に疑問を持つ少女、涼子に出会います。彼女が語る日本の印象に不快感を持つ勇二でしたが、自由闊達な彼女に惹かれるようになります。不器用ながら彼女と向き合う勇二でしたが、幼い頃から慕う兄と恋仲であることを知ります。二人の仲を面白くないと感じながらも自身の気持ちを押し殺し変わらないように過ごしていました。ある日、兄のもとに学徒出陣の召集令状がきます。「もしも、戦争がなかったら」そう考えさせられる物語です。       (W.H)