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おすすめの本
 

No.718  令和4年2月

『台湾対抗文化紀行』『アルタイの片隅で』
神田 佳一/著 晶文社

 海外放浪が趣味の著者は、アジアの中で台湾だけ訪れていませんでした。著者にとって初めての台湾は、日本に「台湾ブーム」が到来する前で情報も少ない頃でした。台湾へのイメージは面白みのない国でしたが、いつのまにか自分の第三の居場所となるほど台湾に魅せられていくのです。この本はフリーライターの著者が、躍動するカルチャー・シーンの中で、インディペンデントの精神をもってユニークな生き方をする人々に旅の中で出会った記録です。周辺諸国の文化をうまく取り入れて、自己主張とゆるさが絶妙なバランスで共存する島、台湾。台湾に出会い、降り立ち、インディ音楽を知る。台湾と中国、台湾アイデンティティを巡って考えたことなど、全7章にわたる台湾について知り、考える一冊です。 
                (T.M)

李 娟/著 インターブックス 

 作家の著者が中国西域の遊牧地で母親と二人、裁縫店兼雑貨店を営んでいた頃のことを綴ったエッセイです。商売相手は羊の群れと共に移動する遊牧民なので店も移動します。片言のカザフ語でやり取りをし、どこの誰かも、いつ会えるかもわからない客にツケで販売します。服を注文したものの支払う金がなく出来上がった小花模様のブラウスを時々試着しに来る女性がいます。寒さを紛らすために酒を一杯飲みに寄る客がおり、カウンターの下には酒のかたに置かれていった帽子や手袋がたまっています。
 過酷な環境の中での貧しい生活ですが、素朴で誠実な人々の暮らしが静かに、時にはユーモラスに描かれており、温かい気持ちになる一冊です。
                (N.K)
『ペットの命を守る本 もしもに備える救急ガイド』『サンセット・サンライズ』
サニー カミヤ/著 小沼 守/監修 緑書房

 ペットの命を守ることは飼い主の責任です。特に異常気象による自然災害が増えつつある現在、突然の事態に備えて準備をしておく必要があります。軽い症状・ケガだと思っても、見過ごしてはいけません。この本には、災害時の対処をはじめ、危険回避のための避難生活の様子など、飼い主なら知っておきたい事項が盛りだくさん。救命措置時の体の向きやポジションが写真とともに解説されているので分かりやすいですよ。
 大切な家族であるペットを守るために自分ができる備えは何か、本書を読んで今一度考えてみませんか。
                (A.K)
楡 周平/著 講談社

 コロナウイルス感染によって生活が様変わりしている中、西尾晋作が勤める大手電機機器メーカーの東京支社でも業務をテレワークにすることになりました。テレワークのメリットは居住制限がないこと。そこで、釣り好きの晋作は、海に近い物件を探し、宮城県最北部の海辺の町へ移り住みます。そこは大好きな釣りと美味しい魚料理を満喫できる地でしたが、一方で震災を受け九年経った今も津波の痕跡が残っていました。さらに、人口減少や高齢化、空き家問題などを抱えていました。晋作はその現実を目の当たりにして対策を講じ、地域再生に取り組むのでした。コロナ禍だけでなく、様々な社会問題を抱えた今をリアルに描いています。
               (Y.O)
『日本酒がワインを超える日』『その日まで』
渡邉 久憲/著 クロスメディア・パブリッシング

 150年続く老舗酒蔵の社長である著者は、29歳で家業を継ぐために入社しました。当初、廃業を覚悟する程の苦しい状況でしたがV字回復を果たし,さらには、商圏を世界に広げるまでに成長しました。
 著者は品質向上だけでなく、売る技術にも目を向けて施策を打ち出します。国内外のコンテストに出品したり、おもしろチラシを配るなど次々と改革を行います。お客さんの声を聴くことを大事にし、日本酒が世界でワインを超越することを夢見て奮闘する著者。その姿は様々な業界で働く人々に響くものがあるかもしれません。 
                (M.O) 


瀬戸内 寂聴/著 講談社

 著者最期の長編エッセイです。99歳、生涯現役で書き続けてきた著者は、同業の友人たちがこの世から旅立つのを見送り続けてきました。今までに関わりあってきた友人たちを振り返るさまは淡々としているようですが、不意に訪れる「今、あの人が生きていたら」という著者の思いが読む側の心を揺さぶります。
 この世を旅立つ「その日」をどう迎えるのか――。体のあちこちが痛もうが、よく食べ、よく呑み、よく眠り、そしてよく書いて。筆者は「その日」までをまさに「生き切った」のでしょう。少し寂しいけれど、最後は心に日が差すような読後感です。
               (A.K)