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おすすめの本
 

No.711  令和3年10月

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』『しごと放浪記』
川内有緒/著 集英社インターナショナル

 年に何十回も美術館に通う白鳥健二さんは全盲。「目が見えない人が美術作品を見るってどういうこと?」と不思議に思った著者は白鳥さんといっしょに美術館の展覧会に行くことに。「何がみえるか教えてください」と問いかける白鳥さんに、作品の説明をする著者は、自分でも思ってみなかった新たな作品の魅力を発見します。読みながらアートの意味や障害があるってどういうことなんだろう。と考えさせられることも多かったのですが、白鳥さんとの美術館巡りは何より楽しそうで、障害のあるなしにかかわらず、人と人とが楽しんで、見たり伝えたり触れ合ったりしながら、人が作り上げた作品を楽しむ、その根源の楽しい!という魅力をめいっぱい伝えてくれる一冊です。
(Y.M)

森 まゆみ/著 集英社

 著者は出版社勤務を経て、地域雑誌『谷中・根津・千駄木(谷根千)』を創刊。雑誌は全国から谷根千を訪れる人が増えるきっかけになります。24歳からフリーとなり、作家、編集者、市民運動家、まちづくりの手伝い等、様々な肩書きがある著者は「人の役に立つこと」が仕事なのだと考えます。本書は、どうしたら自分の好きなことを仕事にできるのか、若い人々の役に立てることは何かと考え、自身の20代の悪あがきを中心にまとめています。編集の仕事を覚え、再度の学び直し、出産育児、地域雑誌の創刊、離婚、物書きに。
 人の一生は長くて100年、その人にとってかけがえのない時間です。元気なうちは働いていたいという著者。本書のどこからも元気なパワーがあふれています。               (T.M)
『あかずの扉の鍵貸します』『ヒトコブラクダ層ぜっと・上 /下巻』
谷 瑞恵/著  集英社

 大学生の朔実は高校生の時に両親を亡くし、親代わりとなった遠縁の不二代がたったひとりの家族。その不二代が病床にいて、自分の命の終わりを悟った様子で「あかずの間がほしい」と奇妙な頼みごとをしてきました。朔実はその願いをかなえるため、渡された名刺をたよりに設計事務所を訪ねます。そこは古びた洋館で、「まぼろし堂」ともよばれ、誰にも知られたくない秘密をおさめるあかずの間を提供してくれるというのです。人々のよりどころとなっている幻想的なその館は、朔実にどんなことをもたらすのでしょうか。 
 現実にあかずの間があったら…。そんな思いを馳せながら、朔実たちと同じ空間を過ごしてみてはいかがです。             (Y.O)
万城目学/著 幻冬舎

 主人公は『三秒』という名の特殊能力を身に付けた、三つ子の兄弟。冒頭彼らは貴金属泥棒で大金を手にし、化石発掘のために山を丸ごと買い占めます。しかし彼らの悪事の証拠を握る、ライオンを従えた謎の女が現れ、三つ子は女に操られるがまま、何故か自衛隊に入隊させられ、訓練の後、PKO派遣部隊としてイラクへ行き、砂漠の地でシュメール文明の謎を解くことに・・・?!
 まったく意味不明なあらすじですが、それもそのはず本書の著者は『鹿男あをによし』や『プリンセス・トヨトミ』などの奇想天外な作品群で知られる万城目学さんです。期待を裏切らない驚きの展開に満ちたエンターテインメント小説です。     (K.A)
『二十一時の渋谷で キネマトグラフィカ』『オリンピックにふれる』
坂古川 一絵/著 東京創元社

 老舗映画会社、銀都活劇は大手IT企業資本の映像配信会社の傘下に入る決定をしていました。会社が買収されることになり、業務はストップ、人員削減、様々な噂…、雰囲気は最悪になりました。そんな中、DVD宣伝チームのチーム長を務める砂原江見は新たな企画を考えます。不穏な空気が飛び交う会社で、新たな企画を成功させる為、DVD宣伝チームは奮闘します。
 本書は、映画業界を舞台に描かれています。20年間働いた銀都活劇で、人を巻き込みながらできることを行おうとする江見の姿は、社会人の心にズッシリと響きます。            (M.O)


吉田修一/著 講談社

 コロナ禍での東京オリンピック開催の前日、部下が突然無断欠勤しました。翌日、本人から謝罪の電話があり「この手で国立競技場にふれてみたいと思って。必ず戻るので時間をください。」とのこと。ほっとくわけにもいかず、訳の分からないまま国立競技場に行ってみると、部下はゲートの前にいて、中に入れるよう警備員と押し問答していました。部下の真意は?そして、上司としてどのような行動を取るべきなのでしょうか?
 香港、上海、ソウルそして東京を舞台に、オリンピックがほんの少しだけ人生に影響を与えた人たちを描いた4つの短編集です。       (N.K)