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おすすめの本
 

No.708  令和3年9月

『”ひとり出版社”という働きかた』『硝子の塔の殺人』
西山 雅子/編 河出書房新社

 「小さい書房」の安永さんは民放テレビ局に勤務し仕事に打ち込んでいましたが、出産を機に「子どもと一緒に晩ご飯を食べるため」に退職し出版社を立ち上げました。わずかな利益ながら楽しくやっているようです。
 本が売れない時代と言われている今あえて、ひとり出版社という働き方を選んだ人たちを紹介しています。本を通して伝えたいことは何か、どのような過程で今の道をえらんだのか、何を実現したいのか、個性的な考えが語られています。稼ぐことだけが仕事ではない、生き方の多様性を教えられる一冊です。               
                          (N.K)
知念  実希人/著 実業之日本社

 人気作家が描く、新本格ミステリーの流れを汲んだ期待の新作です。ガラス張りの11階建ての塔に招待された主人公たちは雪崩で閉じ込められ、車も動かせず、外部との連絡が不通となります。そんな中、最初の殺人事件が起こります。その後も密室での連続殺人、暗号による謎解き、名探偵の登場、ラストのどんでん返しとミステリーのメニューが一通りそろった作品です。
 さて、犯人はいったい誰なのか?密室のトリックはどうなっているのか?作者からの挑戦を受けた読者は、これらの謎を見破ることができるのでしょうか。
                    (K.S)
『漂流者は何を食べていたか』『都会の異界』
椎名 誠/著 新潮社

 自らを「漂流記マニア」と断言する著者。子どもの頃、ジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』に熱中。やがて読む本の幅は広がり、本当の漂流記録は過酷で油断ができず、生還者がいた時の感動は重みが違うことに気づきます。海洋、山岳、砂漠等の探検冒険記に興味は広がり、著者自身の行動にも影響します。本書は、著者がむさぼり読んできた漂流関係の本の中から読みごたえのある本を選び、漂流者が生還するため何を飲み、何を食べてきたかに焦点を絞ったものです。海を漂流し海鳥やサメを生食し、アザラシ、シロクマを捕る、生き残るための壮絶な日々の記録とは。苦悩と絶望に閉ざされた漂流の日々は、荒波に毅然と立ち向かう希望と勇気の物語であると再確認します。
                 (T.M)
高橋 弘樹/著 産業編集センター

 テレビ東京のディレクターの著者は、東京23区にある「島」に関心を寄せ、10年以上にわたって取材をしてきました。そのうちに都会にいながら田舎に住みたいと願っていたこともあり、10以上存在する島のひとつの佃島に住み始めます。本書は、著者の眼を通して東京の別の姿を楽しく案内しています。
  江戸の風情が残る橋の向こうには、都会の象徴のようなタワーマンション群が立ち並び、路地に入ると昭和を彷彿とさせるレトロな長屋がひしめき合う。無機質な工場の傍には花畑や水平線を望む絶景ビーチなど、都会の雑踏から一歩外れると、そこは異界感があふれています。そして、行く先々で出会う個性的な人々との交流が、なお一層島の魅力を引き立てています。
                    (Y.O)
『幻月と探偵』『陰陽師 水龍ノ巻』
伊吹 亜門/著 KADOKAWA

 1938年、私立探偵の月寒三四郎に満州国の官僚、岸信介から依頼が舞い込みました。内容は岸の秘書が急死したことについてでした。秘書はその婚約者の祖父、小柳津義稙の自宅で開かれた晩餐会で毒を盛られた疑いがあり、月寒は捜査を始めます。自分の身に危険が迫る中、月寒は犯人を見つけ出すことができるのでしょうか、そして犯人の目的とは。
 本書は当時のシベリアや満州について、著者が様々な文献で緻密に調べ上げてあり、読みごたえのある内容です。また、衝撃的な展開の連続に、最後まで目が離せません。
               (M.O)


夢枕 獏/著 文藝春秋  

 時は平安時代。魑魅魍魎が跋扈し、百鬼夜行が都を通り抜けます。
 陰陽師・安倍晴明と、笛の名手・源博雅のもとに持ち込まれるのは、奇妙で恐ろしい事件ばかり。飄々とした清明と、無垢な博雅が次々と解決していきます。
 気に入った和歌を盗む鬼や、コロナを彷彿とするような、奇妙な病が流行する話など、幽玄の世界に広がる、妖しくて、哀しい短編集です。
 35年も続く、「陰陽師シリーズ」、待望の新作です。


                  (Y.N)