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おすすめの本
 

No.698 令和3年4月

『つまらない住宅地のすべての家』『Story  for  you』
津村 記久子/著 双葉社
 
 狭い路地を挟んだ10軒の家に住む人たちの数日間を描いた小説です。逃走中の受刑者が近くに逃亡しているとの情報があり、防犯のためにグループを作り交代で見張りをすることになりました。それまでは、顔を合わせてもあいさつを交わす程度の関係でしたが、行動を共にするうちにお互いの家庭の事情がわかってきます。どの家庭にもそれぞれ知られたくない問題があったのです。
 身近にいながら関わりを持ってこなかった人と関わるようになった時、お互いの言動が影響しあって、それぞれが抱えていた問題が解決されていきます。
 周囲の人との関係を見つめ直したくなる一冊です。
(N.K)

講談社/編 講談社

 
 いつもの日々ではないコロナ禍の夏休み、webサイト「tree」に毎日発表された62編の短い物語が本になりました。柏葉幸子「魔女のパフェ友」ではパフェを食べにきた魔女の話、中島京子「守り神」は全てからあなたを守る神様がいることを教えてくれます。森見登美彦「花火」では、何もする気力がない時は、したつもりで過ごしてみようと提案します。

 児童文学、ファンタジー、歴史小説、ミステリー等、様々な分野の62人の著者によるショート・ショート集。物語の力、読むことの力で読者の心が少しでも軽くなればという願いが込められています。

(T.M)
『宇宙飛行士選抜試験』『東京日記6 さよなら、ながいくん。』
内山 崇/著 SBクリエイティブ

 宇宙エンジニアである著者が約12年前に挑んだ「宇宙飛行士選抜試験」。その試験はJAXAとしても10年ぶりの募集で、またとないチャンスでした。10か月という長期に及ぶ選抜試験の内容は、医学検査や心理適性検査、そして閉鎖環境試験など難関ばかり。当時の心境とともに綴られる臨場感あふれる試験内容は、自分も受験者の一員になったような気持ちにさせてくれます。
 あと一歩というところで夢を叶えられなかったあの時から「宇宙飛行士試験ファイナリスト」という呪縛に縛られていた彼を、新たな夢へと突き動かしたのは何だったのでしょうか。
 全読者に向けたエールが込められた1冊です。
(A.K)

川上 弘美/著 平凡社

 身の回りで起きた出来事がつづられた日記風のエッセイです。6巻目となるこの本は、シリーズ20年目を迎える著書のライフワークともいえる作品です。
 飾らない思いや、友人との会話、知人のエピソード、仕事先での話などが淡々と、しかしリアルに語られています。あとがきに、ほぼ全て「ほんとうのこと」と書かれていましがた、それを疑いたくなるほどの予想をはるかに越えた面白みがあります。私たちが同じように過ごしている毎日も、意外と様々なドラマがあると思わせてくれる一冊です。
(M.O)
『大名の「定年後」江戸の物見遊山』『ひとりぼっちが怖かった』
青木 宏一郎/著 中央公論社

 日本の65歳以上の高齢者の75%は、次の人生をすでに始めているそうです。ソニー生命保険が行った「シニアの生活意識調査」で、現在の楽しみの第1位は、「旅行」でした。
 実は、定年後に旅行を楽しんだのは、現代人ばかりではありません。江戸時代中期の大名、柳沢信鴻(やなぎさわのぶとも)も「物見遊山」と称して旅行を楽しんだといいます。
 この本では柳沢信鴻の書いた『宴遊日記』を紐解きながら、彼の足跡をたどります。春夏秋冬、雨の日も晴れの日も楽しめる江戸の風景や活気あふれる人々の様子が描かれています。
(A.K)
朝日新聞社会部/著 幻冬舎

 「ひとりぼっちになるのが怖かった。近くにいてほしかった。」と61歳の息子は法廷で答えました。91歳の父が自宅で息を引き取り、40年にわたる父子二人の暮らしは終わりを迎えます。しかし、息子は父の死を誰にも伝えず、逮捕されるまで24日日間一緒に過ごし、死体遺棄罪に問われました。
 本書は、裁判所で取材する朝日新聞の記者が目にした30件の刑事裁判の傍聴の記録です。
 事件の背景には、病気や介護、DV、貧困などやむにやまれぬ事情がありますが、犯した罪は取り返しがつきません。人間の弱さ、愚かさを痛感すると同時に、犯罪が起きない社会にするために何ができるのか考えさせられます。
(Y.O)