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おすすめの本
 

No.683 令和2年8月

『臆病な都市』『生き物が大人になるまで』
砂川 文次/著 講談社

 「鳬(けり)」という鳥の死骸が相次いで出現。未知の伝染病の存在が疑われ始めるところから物語は幕を開けます。
 「鳥の死骸と感染症の因果関係はなく、また感染症の存在自体の確認もされていない」という研究所の声も届かず、恐怖に駆られたある自治体は国に先駆けて条例を作ります。条例が作られたことで、ないはずの伝染病への恐怖が加速します。
 本当に恐ろしいのは、伝染病すらも「道具」としてしまう国や議員か、正義を暴走させる民意か…。
 重苦しくも考えさせられる1冊です。
                  (A.K)

稲垣 栄洋/著 大和書房

 私たちの成長にはバラつきがあり、体の大きい人や小さい人もいれば、性格や能力などには様々な個性があります。それは色々な個性を持った人がいる集団の方が、種として存続するのに有利だからです。バラバラであるということは生物が進化する過程で手に入れてきた知恵なのです。対してバラつきを整理したがる人間の脳が作り出した平均値という名の言葉、それを「ふつう」と著者は語ります。
 バラつきこそが私たち生物の戦略なのです。多様性という自然界の不思議を考えさせてくれる一冊です。
 
                 (K.A) 
『拝啓、本が売れません』『ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ 扉子と空白の時』
額賀 澪/著 文藝春秋

 デビューして3年、作家として生き残れるか不安を抱く新人作家が「自分の本を売る方法」をテーマに取材して書いた本です。
 敏腕編集者、スーパー書店員、Webコンサルタント、映像プロデューサー、ブックカバーのデザイナーを訪ね歩き、どうしたら本が売れるか質問を投げかけます。スペシャリストたちの知恵や工夫は驚くことばかりです。それぞれの立場から有益なアドバイスをもらい、そのアドバイスを忠実に実行し長編小説『風に恋う』(文藝春秋)を出版しました。果たして結果はどうだったでしょう。
 「こんなこと書いていいの?!」というような作家の本音もあり出版界の様子がのぞける一冊です。
               (N.K)

                
三上 延/著 メディアワークス

 鎌倉にあるビブリア古書堂。極度に人見知りながら、本に対する知識と情熱が人一倍強い店主の栞子を頼り、自然と本にまつわる事件が起こります。夫の大輔は栞子と共に事件を解決し、その事件の顛末を「事件手帖」に書き残していました。
 ある日、無類の本好きに成長した娘の扉子の元に、海外で古書の販売をしている祖母から連絡が入ります。大輔が残している事件の記録から、指定する年の分を見せて欲しいというのです。扉子も存在は知ってはいましたが、読んだことがなかった「事件手帖」。そこに書かれていたのは、この世に存在しないはずの本、横溝正史の幻の作品が紛失したという不思議な事件でした。
 幻の本の裏に隠された、一族の哀しい謎にせまります。            (A.U)
『二百十番館にようこそ』『赤ちゃんポストの真実』
加納 朋子/著 文藝春秋

 きっかけは病気で亡くなった伯父からの手紙でした。そこには孤島にある館を遺産として残しているという内容が。就職活動に失敗してから何年も「ネトゲ廃人」な生活を送る主人公は、親から見捨てられ家から追い出されます。
 そこで、金銭面の不安のためニート仲間を集めてシェアハウスを営み、島での生活を始めます。その後、住人を増やそうと人を呼び込みますが…。
 島の人たちの温かさと、助け合いながら生活をしていくうちに主人公やその仲間も成長していく姿が描かれている小説です。最後に明かされる驚きの真実をお楽しみに!    
                                (A・S)
森本 修代/著 小学館 

 2007年5月に熊本市の慈恵病院が開設した「こうのとりのゆりかご」という名の「赤ちゃんポスト」は、当時、大手メディアにより大々的に取り上げられ話題となりました。命を救うという理念のもと、開設されて13年が経過しましたが、今なおさまざまな課題を抱えています。
 本書では、新聞記者の著者が、病院関係者や元看護師、赤ちゃんポストに子どもを預けた母親、また、預けられた子などを取材し、赤ちゃんポストの存在に対するそれぞれの思いを伝えています。
 命の尊厳について考えさせられる一冊です。
                 (Y.O)