副市長の本棚 バックナンバー vol.2

伊万里市の泉秀樹副市長がおすすめする本の書評を掲載しています。
このページは以前に紹介された本が並んでいます。
本を読みたい方は予約もできますので「本の詳細」をクリックしてください。


平成31年1月 『死の淵を見た男』門田隆将/著 PHP研究所 「本の詳細
 『「吉田調書」を読み解く 朝日誤報事件と現場の真実』門田隆将/著 PHP研究所 
本の詳細

 門田隆将氏については、以前に『狼の牙を折れ』という小説を紹介したのですが、ノンフィクション作家でジャーナリストでもあります。毎週日曜日午後に放送がある「そこまで言って委員会」という番組で、故人になられた三宅久之氏の後任的立場でコメンテーターを務めておられるので、ご存じの方もいらっしゃるかと思いますし、この他にも多くの作品を書いておられ、その綿密な取材力と分析力、また卓越した知見には驚きと尊敬の念を禁じ得ません。
 今回紹介する2冊の作品は、東日本大震災時の津波により放射能漏れ事故を引き起こした福島第一原発において、その時同原発の所長であった吉田昌郎さんとその部下の行動を中心として書かれたものです。門田氏は、事故処理に当たられた後間もなく、燃え尽きたようにガンで亡くなられた吉田さんに、数日間にわたり直接取材された唯一のジャーナリストです。吉田さんが記憶されている限りの事を詳細に聞き取っておられますが、リーダーとして部下に信頼される卓越した人物であった事、しかし、自分が偉かったのではなく部下が優秀で勇敢だったと繰り返し話された事などを、これらの本の中で明らかにされています。
 私も東京電力や吉田氏に対して報道等を通して疑問を持ったり、問題を感じていた事が、この2冊を読むことにより氷解する気がした記憶があります。それでも現実をみれば、福島第一原発周辺に住まわれていた住民の方々は依然、厳しい状況に置かれている事に変わりありませんが、事故処理に当たった自衛隊、消防、東電の現場職員や関係企業の方々が、身命を賭して事故処理の作業に当たられた事は忘れてはならないと思っています。福島第一原発の現場の真実を知るための必読の本です。


平成30年12月 『朝はアフリカの歓び』曽野綾子/著 文藝春秋 本の詳細

 曽野綾子氏は三浦朱門氏の奥様で、ご存知のとおりお二人ともに小説家です。前回、書評に書いた吉村昭氏も奥様は津村節子氏で、同じく小説家のご夫婦なのですが、二組のご夫婦に共通するのは、お互い小説家どうしでいわゆるライバル関係に陥りやすいのにお互いを尊敬し合い、また大変夫婦仲が良かったということです。三浦氏は常々、「妻をめとらば曽野綾子。」と言っていたそうですし、吉村氏が結婚前、奥様の津村氏に送った熱烈なラブレターが何通も残っているそうです。しかし残念ながら、ご周知のとおり旦那様お二人は既に故人となられてます。
 曽野綾子氏はクリスチャン(カトリック)ですが、アフリカやアジアの開発途上国で、貧しい人や病気の人を現地で支援している同じクリスチャンの方達を経済的に支える団体の代表をしておられます。
曽野氏は行動力のある方で、集めたお金が本当に恵まれない人々の役に立っているかを自分の目で確かめるために、現地に頻繁に足を運んでおられます。その中で、環境的にも気候的にも過酷な条件にあるアフリカでも、サバンナの夜明け前後の数時間は、気温も程良くさわやかで空気も澄みきり、天国のようにすばらしいそうです。さだまさしさんの「風に立つライオン」の歌詞にあるような風景を思い浮かべれば、想像できるのかなと思います。
 何かと感動を覚える、皆さんに読んでいただきたい一冊です。


平成30年11月 『ポーツマスの旗』吉村 昭/著 新潮社 本の詳細

 吉村昭氏は私が好きな小説家のひとりです。
 この小説の主人公である小村寿太郎は、身長が150cm足らずだったそうですが、大きく見えたと言われています。小村が持つ雰囲気やその人物が、周りにそう感じさせたのでしょう。
 アメリカ合衆国北東部にある小さな町のポーツマスで、日露戦争のロシアとの講和会議に臨んだ小村は、ロシアから有利な条件を引き出すために頭髪が白くなるような大変な苦労をしました。
 これは日露戦争が、日本海海戦に象徴されるような日本の大勝ではなく、実は国力全てを注ぎ込んでようやく得た辛勝であり、日本が勝利した奉天の会戦時点では、すでに日本は国力が尽きてしまい戦争を継続することが不可能だったのです。
 そういう事実を知らされなかった国民は、小村が得たロシアからのぎりぎりの譲歩(条件)を知り、怒った人々は小村の家に放火して全焼させてしまいます。
 小村寿太郎が、いかに偉大な人物だったかが理解できる1冊です。
 前回書評に書きました司馬遼太郎氏の「坂の上の雲」と併せて、皆さんに読んでいただきたい作品です。


平成30年10月 『坂の上の雲』司馬遼太郎/著 文藝春秋 本の詳細

 司馬大先生の著書の書評をするなど大変おこがましい限りですが、私が40歳頃から読書の習慣がついた契機となったのが、司馬氏が著された膨大な歴史小説群です。
 その中でも『坂の上の雲』は司馬氏の代表作とも言えるもので、既に読まれた方も多いと思いますが、私は2度程読んだ記憶があります。
 日清および日露戦争を主題として、明治に生きた人々の気概が書かれた小説ですが、この小説において乃木大将の評価が厳しいとよく言われます。
 それは司馬氏の太平洋戦争時に戦車隊の一員であった体験からくる、戦争指導者層に対する反発心が底流にあるのではないかと思います。
 戦いの勝利を目指して一目散に坂を駆け上がった日本人が、その後に得たものは何だったのか?
 全体として小説のトーンが決して明るくない理由が、そこにあります。


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